[Q]キーボードの配列はどうしてこのような配列になったのですか?

(静岡県 石川智宏)

[A]キーボードの歴史を振り返りながら、キー配列の紹介をしたいと思います。
 キーボードはもともと英語圏で誕生しました。キーボードの起源はタイプライターに遡ります

 タイプライターは今から百年ほど前のアメリカで開発されました。最初のキーボードは、現在のような配列ではなく、頻度の高い文字は操作のしやすい場所に配置するといった具合に、素早く効率よく打てるように開発されていました。

 しかし、その頃は機械式タイプライターなので問題が出てしまいました。機械式タイプライターは、キーを押し下げたときの力を利用して活字の付いたハンマーをカーボン紙に打ち付けます。そこで、あまり速いタイピングだとハンマー同士が干渉しあって、タイプライターが動かなくなってしまうことがありました。そこで、使用頻度の高いキーを意図的にハンマーが干渉しない位置(遠く離れた位置)に配置することで対処しました。

 それが現在もっとも一般的な配列である「QWERTY配列」の起源です。つまり、理想的な配列ではなく、機械式タイプライターをスムーズに動かすために生まれた妥協の産物だったのです。ちなみに、なぜQWERTY配列と呼ぶかというと、左手上段部のキーの並びがQWERTYという順番で並んでいることに由来します。その後、電子式タイプライターやコンピュータがキーボードの活躍の場になり、QWERTY配列を基本とした101系キーボードが普及しました。

 しかし、もともとパンチの干渉を防ぐために開発されたQWERTY配列は、キーボードが電子デバイスとなった今では(普及率を無視すれば)タイプ効率が悪いだけの配列としか言えないものです。そこでDVORAK博士が開発した、より効率的な配列であるDVORAK配列がにわかに脚光を浴びるようになりました。

 DVORAK配列は、より少ない指の動きでタイプできるようにデザインされた配列です。具体的には使用頻度の高い文字をホームポジション(キーボードの「F」キーに左手の人差し指、「J」キーに右手の人差し指を置いた状態)の段に配置しています。統計によると70%の主要英単語がホームポジションの段でタイプできるようです。一方QWERTY配列の場合は31%しかタイプできません。残念ながら現在のDVORAK配列の普及率は低いですが、世界一速いタイピストはDVORAK配列を利用しているそうなので、実績は折り紙付きです。今お使いのキー配列がQWERTY配列でもDVORAK配列を疑似体験できるサイトがありますので、興味のある方はアクセスしてみてはいかがでしょう(http://members.home.net/knghtowl/java.html)。

 キーボードの進化はまだ続きます。キーボードは配列だけではなく、構造についても進化し続けています。人間工学にもとづいた「エルゴノミクスキーボード」と呼ばれるものが代表的です。MicrosoftのNatural Keyboardシリーズが有名ですね。人間の自然なひじの開きにあわせて、キーボードを中央から「ハ」の字型に分割するほかに、手首への負担を軽減するためのパームレストが付いている形状が特徴的です。Natural Keyboardシリーズで残念なのは、QWERTY配列のみの販売で、DVORAK配列は用意されていないことです。

 日本で手に入るDVORAK配列のエルゴノミクスキーボードを紹介しましょう。KINESIS(http://www.kinesis-ergo.com/)のキーボードです。キーボードが中央から「ハ」の字に分かれているのはNatural Keyboardシリーズと同様ですが、キーは、お椀の底のような半球状にへこんだような形で、配置されています。指の自然な曲がり方に合わせてデザインされているようです。標準はQWERTY配列ですが、オプションとしてDVORAK配列が用意されています。このほかの特徴としては、オプションとしてフットスイッチが装着でき、シフトキーの代わりに利用できて大変便利です。

 日本国内に目を向けてみましょう。日本語で主流のキーボードは、日本語106系キーボードになります。JIS配列の「カナ」の並びもQWERTY配列と同様に機械式タイプライターを意識したハンマーの干渉対策が施されていました。統計によると、一番よく使う段はホームポジションの上であり、一番よく使う指は一番動きの悪い小指になっています。また、取り組み安さをねらった50音配列キーボードなどもありましたが打ちにくさではJIS配列以上でした。

 このような背景のもと、より速く日本語を入力するための研究が行なわれ、新JISかな配列や、親指シフト配列などが誕生しました。新JISカナ配列(http://beta.ap.titech.ac.jp/~you/keyboard/iijima/fig4.gif)の特徴は、最上段のキーを使わずにホームポジションの段を含む上下3段にカナを配置したことにあります。しかし新JISかな配列は、普及にはいたっていません。

 親指シフトは、富士通の日本語ワープロ専用機「OASYS」のキーボードとして生まれ、習熟度、指の使用バランス、指の移動量などの研究結果から、親指を使ったシフトキーを導入して作られたキーボードです。日本語入力における統計としては、ホームポジションの段の利用頻度は、JIS配列の25%に対し、親指シフト配列は63%と圧倒的な差となっています。この結果は、日本語ワープロコンテストの場でも上位入賞者が親指シフトキーボード利用者に占められるということからも、実用性の高さが裏付けられています。PC用親指シフトキーボードは富士通より入手することができます。

 最後に、トロンキーボードを紹介します。トロンキーボードは、労働医学や人間医学、人間工学的見地から「どういうキーボードを使えば人間側の負担がもっとも少なくなるか」ということについて徹底的に追求することにより設計されたキーボードです。英数文字はDVORAK配列を採用し、かな配列は、新JIS配列でもない親指シフト配列でもない、独自の配列になっています。

 今回はキーボードのおおまかな流れを中心に紹介しましたが、細かい仕様については、紹介していません。細かいキーボードの仕様まで紹介したページが、http://www.pfu.co.jp/hhkeyboard/kb_collection/index.htmlに用意されていますので、キーボード購入の際に参考にするとよいと思います。

 蛇足になりますが、今回の質問で、キーボードについていろいろ調べてみた結果、現時点でDVORAK+親指シフトキーボードが最強ではないかと個人的に感じました。ただし、そのようなキーボードは今のところないようです。個人的にはローマ字入力なので、DVORAKを本気で検討してみようと思いました。多くは性能で選ばれるPCのパーツの中で、数少ない「好み」で選ぶキーボード。この機会にぜひ好みのキーボードを探してみるとよいと思います。

(相川成周)

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