|
FILE 01
|
DOS/V
POWER REPORT Q&A COLLECTION
|
2002年
|
|
5月号
|
|
最近、テレビキャプチャカードで、「三次元Y/C分離回路」を搭載したものが話題になっていますが、これはどういったものですか? (神部直久さん) |
私たちが普段見ているテレビ放送やビデオの映像信号は、National Television System Committeeが策定したNTSCと呼ばれる放送規格に沿った信号によって送られています。NTSCはさまざまな特徴を持つビデオ信号方式ですが、カラー映像を表現する際に、明るさを示す輝度信号「Y」とその色を示す色信号「C」の二つの信号を用いるという特徴があります。ちなみにテレビとは、これらの信号を電波として受信し、映像に変換するもので、ここで扱っているのはデジタルテレビ放送ではなく、一般のアナログテレビ放送を指します。
現在、日本における地上波テレビ放送には、図1-1のとおり一つのチャンネルにつき6MHz分の放送帯域が割り当てられており、映像や音声は、電波の特性に合わせて、送信しやすい形に変換する「変調」を施され、この帯域に収められています。 ただし本来この6MHzの帯域は、輝度信号だけで映像を表現していた白黒放送で使用されていたもので、すでに輝度信号と音声信号とで一杯になっています。そこで、現在のカラー放送では、輝度信号の信号帯域の中に、色信号をあらかじめ混合して送信し、受信側ではこれを分離して利用する方法を採っています。このようにYとCが混合された信号のことを「コンポジット信号」と呼び、この信号からYとCを再び分離することを「Y/C分離」と呼びます。 図1-1では各信号の周波数割り当てを表わしています。輝度信号は、変調の際に基準とする各チャンネルの周波数「運搬波」(ここでは映像運搬波)に「振幅負変調」という変調を施して送信されます。この内、映像再生で使用する帯域幅は4.2MHz分です。搬送波のマイナス側の1.25MHz分は、無意味なデータですが、正しく電波を送るために必要なものです。これに対して色信号は、映像搬送波周波数よりも3.58MHzだけ高い周波数を搬送波として(これを「映像副搬送波」と呼びます)、これに「搬送波抑圧直角二相変調」という変調方法を用いてY信号の中にうまく紛れ込ませて送られます。
これで信号を送ることは可能になりましたが、次に問題になるのが、一旦混ぜ合わされた信号をどのようにして分離するか、です。周波数の違う信号同士であれば、特定の周波数だけを通すフィルタで分離できますが、すでに述べたようにY信号とC信号の周波数帯域は完全に重なり合っています。そのため、これらを完璧にもとの形に分離することは、原理的に不可能です。 そこで、できるだけもとの信号に忠実な形で分離させようと考えられたのが、質問にある「三次元Y/C分離」というわけです。
三次元Y/C分離について説明する前に、まずもっとも単純なY/C分離方法を考えてみましょう。単純な方法は、図1-2にあるように、両者が混ざり合う3.58MHz近辺については、これをすべて色信号であると考えて、それ以外の映像帯域の信号を輝度信号とする方法です。 この方法のメリットは回路が非常に簡単で、3.58MHz近辺だけを通す「バンドパスフィルタ」と、それ以外を通す「バンドエリミネートフィルタ」という二つのフィルタを使えば実現できます。この手法は一般に「一次元Y/C分離」と呼ばれますが、輝度信号の一部がそのまま色信号として使われてしまうために、本来の色とはまったく違う色が表示されたり、色が濁っていたり、といった症状が発生します。
そこでこの問題を解消するために考えられたのが、上下に並ぶ走査線を比較する方式です。C信号は走査線1本ごとに位相が180°ずれるため、波の形は+と−が反転した状態となります。つまり、図1-3のように隣り合う2本の走査線の輝度と色がまったく同じであれば、それらを足し合わせるとC信号が相殺されてY信号だけが残ります。 また、二つの走査線の差を取ると、こんどはY信号が相殺されてC信号だけが残ります。 一般的に同じ画面内で隣り合う二つの走査線の内容はよく似ていることが多いため、この原理を使えば一次元Y/C分離よりもきれいに輝度信号と色信号を分離できることが多くなります。この方法は2本のラインの相関関係を利用するため「2ライン相関Y/C分離」と呼ばれます。ただ、2本のラインを使うだけでは問題が起きる場合もあります。たとえば斜め線のように上下方向に画像が変化するような場合、上下のラインの輝度信号が大きく異なるため、これらが色信号であると誤認されてしまい、違う色が表示されてしまうのです。こうした現象を「クロスカラー」と呼びます。このクロスカラーを軽減するためには、走査線を2本だけではなく3本や4本にして、Y信号の変化分を平均化する方法があります。 こうした処理に使われるフィルタが「くし形フィルタ(コムフィルタ)」と呼ばれるもので、処理するライン数によって「3ライン相関コムフィルタ」と呼ばれることもあります。またこれを用いるY/C分離方法を「3ライン相関Y/C分離」と呼びます。これらのY/C分離は、同一の画面内(つまり二次元の画像内)で上下方向の比較をすることから「二次元Y/C分離」と呼ばれます。 ライン相関はライン数を増やせばよいというものではありません。なぜなら離れた位置にある走査線は、その内容が異なることも多く、相関関係が低いからです。とくに画面内に水平線が表示される場合など、隣り合う走査線同士の内容が極端に異なる場合、C信号をY信号と誤認してしまうといった現象も起きやすくなります。これが発生すると、水平線、またはそれに近い輪郭線にノイズが生じる「ドット妨害」と呼ばれる現象が起きます。
そこで考えられたのが質問にある「三次元Y/C分離」です。これはライン同士を比較する、という点では二次元Y/C分離と同じですが、図1-4のように、上下のラインではなく、直前の画面の中の同じ位置にあるC信号が反転したラインとの比較を行なうというものです。 動きの遅い画像の場合、隣り合う画面の画像はほぼ同一の画像ですから、上下のラインの相関よりもさらに高い相関が得られます。これを利用してY/C分離をしようというわけです。これは時間軸を利用するため、三次元Y/C分離と呼ばれます。 ただ、原理からも分かるように、この方法は前後の画面に映る画像の相関が高い、すなわち動きの少ない画像でのみ有効な方法です。前後の画像が大きく異なる「動きの速い動画」や「カットの切り換わり」では、まったく別の画面の影響を受けてしまうため、最近では、画面の動きを検出して、動きが少ない場合は画面ごとに三次元Y/C分離を用い、動きの激しい場合は画面内で自動的に3ライン相関Y/C分離に切り換える、といった「動き適応型三次元Y/C分離」を装備するのが一般的です。
さて、非常に難しい話が続いてしまいましたのでここで要約しましょう。まずコンポジット信号は、テレビに表示したり、PCに取り込んだりする際Y/C分離を行なうことが必須であり、このY/C分離は、一次元、二次元、三次元の3通りの方法が一般的に使われています。Y/C分離の精度が悪いと、色が濁ったり、画面にノイズが現われたりするため、よりきれいな取り込みを行なうには「二次元と三次元Y/C分離の組み合わせが望ましい」ということになります。 これまで、PC用のテレビチューナーカード、キャプチャカードでは一次元の単純なY/C分離が主流でした。最近では画質重視志向が進み、二次元または三次元Y/C分離機能が搭載される例が増えています。後者のほうの画質がよいのは言うまでもありません。しかし、一次元Y/C分離のキャプチャカードを使っている場合でも、すでに外部でY/C分離されている信号を入力する場合には、高画質な取り込みが可能です。ほとんどのビデオキャプチャカードには、Y信号とC信号とを分離した状態で入力できる「S-VIDEO端子」が装備されていますので、三次元Y/C分離を搭載したビデオデッキなどからこのS端子に入力してやれば同様の効果を得ることができます。 (天野 司) |